社長コラム

社長コラム 2021

第115回(12月28日)『テロメライシンとテロメスキャンの今後の方針について』

株主の皆様

 いよいよ年の瀬も迫って参りました。北日本では強い寒波が襲来しており,交通や物資流通の停滞も発生しているようで,お見舞い申し上げます。

 本年は,10月に中外製薬からのテロメライシンライセンスの解消という残念な知らせが舞い込んできて,皆様には大変な混乱とご迷惑をおかけしました。この度,ようやく中外製薬と契約解消に伴う種々条件が整いました。内容はほぼ当社の要求通りであり,来年10月15日までに,現在進行中の「放射線併用食道がんPhase 2 」を当社へ引継ぎ,その間の開発経費は中外製薬がすべて負担することとなりました。また,ヘノジェン社(ベルギー)で行っている商業化に向けたGMP製造に関しても,同期間に発生した経費の約半分を中外製薬が負担することになりました。この経済条件によって,少なく見積もっても当社の負担は数億円規模で軽減されます。具体的な中外製薬からの入金額は,2022年の決算説明の中で報告させて頂きます。

 当社は現在,テロメライシンの国内自社開発と2024年度の承認申請にむけて,開発や薬事スタッフを増強する計画を立てています。また,日本以外の海外ライセンスにつきましても,オンコリスUSAのビジネススタッフを増強して,さらにビジネス活動を強化してゆきます。

 また,この度米国ペンシルベニア大学発のベンチャー企業リキッドバイオテック社(Liquid Biotech Inc. 「LQB社」)とのテロメスキャンライセンス契約を当社から解消することにしました。

 ペンシルベニア大学ではこれまでに,テロメスキャンを使った血液循環がん細胞(CTC)の検出技術を使って,肺がんや脳腫瘍患者の放射線治療とCTCの関連に関して,多くの発表を行っており,この技術を基にLQB社は2015年に設立され,当社が資本参加することになりました。

 その後LQB社は,ニューヨーク大学やトーマス・ジェファーソン大学との共同研究をはじめ,大手製薬企業によるがん治療薬臨床試験でのCTC測定受託など,事業を展開してきましたが,会社成長のためのVCなどからの資金調達が大幅に遅れることとなり,今後の活動に見込みが立たなくなったことを受け,この度契約を解消することとなりました。

 大変に残念な判断となりましたが,テロメスキャンによるCTC検査は,血液中に「生きたままでいるがん細胞」を検出できる唯一の検査法であり,治療後のがん再発早期発見などに応用できるよう,開発を継続させてゆきます。現在当社では,AI技術などを用いた簡易な検査プラットホームを完成させるため,順天堂大学とのコラボを継続させてゆきます。2024年までの完成を見込み,早期の商業化を目指してゆきます。

 皆様の新年に向けての益々のご健勝をお祈り申し上げますと共に,今後も皆様のご理解とご支援を賜りますよう,宜しくお願い申し上げます。

2021年12月28日
オンコリスバイオファーマ株式会社
代表取締役社長 浦田泰生

第114回(12月1日)『ヌクレオカプシド阻害薬OBP-2011の開発』

株主の皆様

 10月に発足した岸田政権は,誕生早々に様々な問題に遭遇しています。特にコロナ感染症対策に対して,非常に厳しい状況にあると言えます。今年の夏に起こった第5波はピークを過ぎた後,驚くべき速さで感染者数が減少してゆきました。しかし,これが一体ワクチン接種者増加によるものなのか,国民のマスク着用に対する衛生観念の影響なのか,ウイルス自体の弱毒性変異によるものなのか,まだ誰にも分っていないのが現実です。

 一方で,ヨーロッパ諸国や,お隣の韓国でも,またアメリカでも,感染者自体はまだまだ増え続けているのも現実で,各国とも何とか感染拡大を食い止めようと躍起になっています。そのような中,発見からまだ間もない南アフリカで検出された新たな変異株オミクロン(Omicron)株があっという間に拡大を見せ,とうとう日本でもその感染者が入国時に確認されたとのニュースが流れました。岸田政権は即座に,新たな感染拡大を食い止めるためについにすべての外国人の入国を禁止しました。

 3回目のワクチン接種が開始されるのと同時に,ついに日本にもMerck社が開発した経口のコロナ治療薬モルヌピラビル(molnupiravir,ポリメラーゼ阻害剤)の輸入が発表されました。この薬は,コロナ感染後の入院または死亡に関するリスクを50%下げるという中間解析データから,アメリカやイギリスで緊急承認されており,現在日本でもその審査が始まっていると思います。

 ところが,今日の業界ニュースでやや気になる結果が発表されました。先に述べた50%のリスク削減効果が,最終解析では30%削減という数字になったというものです。このニュースで,世間の注目は一気にMerck社から,90%リスクを下げるというPfizer社の経口のコロナ薬パクスロビド(paxlovid,プロテアーゼ阻害剤)に向けられることになりました。さらに気になるニュースが発表されました。それは,モルヌピラビルが投与された患者のウイルスにスパイク蛋白の突然変異を増長させている可能性がFDAの調査で判明したというものです。これは我々が予測しなかった事態です。この変異がワクチンの効果にどう影響するのかなどは,今後の課題となっています。

 このように,HIV治療薬と同様,コロナ治療薬もただ単にウイルスの増殖を止めるというだけではなく,多くの副作用に対する対処が必要になってきました。当社のOBP-2011は来年上半期の治験届を目標に,様々な前臨床試験が実施されており,臨床での有効性や安全性をいかに高められるかにチャレンジしています。この先,多くの開発の壁を乗り越えてゆかなければなりません。

 当社のOBP-2011は先に述べたMerck社やPfizer社の化合物とは全く異なるメカニズムの「ヌクレオカプシド阻害薬」で,動物実験でもその効果が示されています。今後,Merck社やPfizer社の化合物との併用効果も明らかにして​,新しい市場を探索してゆきたいと思います。​また,オミクロン株への効果も,ウイルス株が入手出来次第確認してゆく予定です。さらに,投与によって変異株ができるのかどうかも検討し,安全性の高い治療薬へと開発してゆきたいと考えています。

2021年12月1日
オンコリスバイオファーマ株式会社
代表取締役社長 浦田泰生

第113回(11月24日)『OBP-601の新しい適応症での組み入れスタート』

株主の皆様

 先日のIR情報の通り,Transposon Therapeutics社(トランスポゾン社)によってOBP-601(TPN-101,censavudine)のPSP(進行性核上性麻痺)に対するPhase 2a試験の症例組み入れが開始されました。この試験は,今後2年ほどかけて二重盲検試験として,アメリカを中心に多施設で実施されます。中間的に効果はどうか,安全性はどうかなど,知りたいことは多々ありますが,この試験は,投薬する医師も薬剤師も,当然患者さんも,実際の薬なのか偽薬(プラセボ)なのか分からない仕組みの下で実施される試験なので,中間的な評価ができないまま試験は続けられます。つまり,症状や日常生活評価の変化にバイアスが入らないようにするために行われる二重盲検試験です。

 PSPという病気は,日本でも難病指定されており,欧米では人口10万人当たり3~6人に発症するオーファン病(希少疾患)です。主な症状は,パーキンソン病に似た体の震えや,歩いていてもよく転んだりすることが特徴で,また,認知症を発症することもあり車いす生活を余儀なくされるなど,リハビリをしても日常動作はあまり改善しません。

 PSPの病理で判明しているのは,脳内の「逆転写酵素(ORF1,ORF2)」が亢進した結果,トランスポゾンという遺伝子がDNAの中で増えてしまい,脳神経に炎症を起こして傷をつけ,さらにそこにタウ蛋白という認知症の原因とされる物質が蓄積してしまう病気です。

 ご存知のように,OBP-601は非常に強力な「逆転写酵素阻害剤」で,HIV感染症の治療薬として開発されてきましたが,この化合物は脳内に入りやすく,脳内の「逆転写酵素(ORF1,ORF2)」も強くブロックできることが判明したため,今回投与が開始されたPSPだけではなく,同様な病理を示すALS(筋委縮性側索硬化症)などの難病の治療に対して効果が期待されてきました。

 この試験の結果が出るまでにはまだ時間がかかりますが,皆様によい結果がご報告できるよう,トランスポゾン社との連携をよくとり,開発を進めてゆきたいと考えています。

2021年11月24日
オンコリスバイオファーマ株式会社
代表取締役社長 浦田泰生

第112回(11月5日)『テロメライシンの今後の状況』

株主の皆様

 テロメライシンの中外製薬との契約解消に関して,その後の状況をご報告いたします。

 中外製薬と当社では,現在,来年(2022年)10月の契約解消に関する覚書の作成を始めております。中外製薬との基本契約に基づき,今後最長1年間に発生する臨床試験やウイルス製造に関する経費については,中外製薬が応分の負担をすることになりますが,その詳細に関して話し合いが始まっています。

 一方,国内での臨床試験はこれまで通り中外製薬の手によって進められています。放射線併用のPhase 2もコロナウイルスの感染減少に伴い,治験用のベッドが使えるようになり,進捗を見せています。年内には治験施設の担当医師による情報交換会が実施される予定です。臨床試験の引継ぎは,先に述べました覚書が締結されたのちに,契約に従って順次行われてゆく予定です。2022年10月には中外製薬からすべての引継ぎを完了させ,それまでに可能な限りプロジェクトを進捗させたいと考えています。

 テロメライシンの商用製造を行うHenogen社(ベルギー)では,すでに技術移転が始まっており,すでに当社社員を現地に出張させ,技術移転の進捗状況を確認しております。全ての工程が順調に進めば,2023年末から2024年には承認申請に足るだけのデータが出そろう予定です。

 2022年中に放射線併用Phase 2への症例組み入れをすべて完了させることができれば,2023年中には症例のフォローアップと最終レポートを完成させ,同時にウイルス製造関連資料が整えば,これまでの予定通り2024年中に厚生労働省への承認申請に持ち込むことが可能となります。

 今後の資金繰りに関しては,経口コロナウイルス治療薬OBP-2011や第2世代テロメライシンOBP-702などの開発のバランスを考慮し,現在検討を急いでいます。但し,9月末で現預金が40億円近くあるため,2021年内に慌ててファイナンスが必要な状況ではありません。さらに,テロメライシンの国内申請に向けた準備や海外の再ライセンスに関しても,すでにビジネス活動を開始しています。日本国内では先駆け審査指定を受けている点や,アメリカでのオーファンドラッグ指定を受けている点などをセールスポイントに,パートナリングを進めて行きます。

 皆様にはご心配をおかけしておりますが,自力でもテロメライシンを医薬品として承認申請に持ち込めるよう,社員一丸となって前を向いて参ります。どうぞ宜しくお願い申し上げます。

2021年11月5日
オンコリスバイオファーマ株式会社
代表取締役社長 浦田泰生

第111回(10月26日)『OBP-2011:薬理試験における有効性の結果』

株主の皆様

 フランスのCROで実施していました新型コロナウイルス治療薬OBP-2011の薬理試験の速報が入ってきました。

 この実験は,ゴールデンハムスターを用いて新型コロナウイルスを鼻から吸入させてコロナ感染症を作るモデルです。この実験モデルに対して,OBP-2011を4日間経口投与してどれだけ肺の中でウイルスの増殖が止められるかを確認する目的で実施しました。

 その結果,OBP-2011はハムスターの肺の中のウイルス増殖を半減させる,という結果を出しました。これは当社にとって大きな進歩であり,OBP-2011の臨床での効果を示唆するものになりました。また,これまでにないヌクレオカプシド阻害という新しいメカニズムが,実際にコロナウイルス増殖を阻害したという大きな発見につながりました。

 現在,日本国内ではコロナウイルス拡大が既に止まったかのような印象をお持ちかも知れません。しかし,ロシアでは感染拡大がいまだに広がり,イギリスでもアメリカでもまだ1日に何万人という感染者が報告されています。また,猛威を振るったデルタ株より強力な変異株も発見されたと聞きます。MSDや塩野義製薬の経口コロナ治療薬の承認も近いというニュースが出ていますが,やはり単独での効果は限定的であり,新しいメカニズムの薬との併用が大切であると考えています。

 今後我々は,治験申請に向けて計画されている前臨床試験をすべて完了させ,PMDAとの相談も行い,2022年上半期にすべての資料を整えて治験申請を行ってゆきたいと考えています。また,当然ですが,AMEDなどの新たなコロナ治療薬助成金にも積極的に応募してゆくとともに,ライセンス先へのアプローチも行ってゆきたいと考えています。

2021年10月26日
オンコリスバイオファーマ株式会社
代表取締役社長 浦田泰生

第110回(10月20日)『テロメライシンの今後の方針』

 この度,IR情報にもございましたが,中外製薬とのテロメライシンに関するライセンス契約が解消され,大変ご心配をかけております。テロメライシンに関する「価値の最大化が出来ない」という判断に関して,私個人としてはまだ十分に納得できる状況にはありません。安全性や有効性に問題があったわけではないのにも関わらず,何故このような判断になったのか・・・。とはいえ,今後最長1年間はライセンス契約が存続し、中外製薬も費用負担して開発が継続されます。

 テロメライシンの食道がんに対する効果は画期的であり,放射線療法単独では局所の寛解率が30%程度であるのに対して,テロメライシンの併用では60%近い寛解率がPhase 1試験で得られています。これは紛れもない事実であり,今実施されているPhase 2試験でも同様の効果は十分に期待できるものと考えています。この結果こそがテロメライシンの価値であり,それを最大化してゆくことを中外製薬に期待していました。

 さて,今回の中外製薬の判断に関して,私としては以下の理由により,前向きに受け止めています。今後は,自社開発を行い,独自で承認申請に持ち込むというチャレンジをしてゆきたいと考えています。確かにMilestone収入の受け取りはなくなりますが,販売後の収入は中外製薬から受け取る予定であったRoyalty収入よりはるかに大きなものになります。

  • 放射線併用Phase 2は組み入れが進み,すでに目標の約半数が組み入れられている
  • 契約終了まで中外製薬に責任をもって臨床試験を進めて頂き、目標症例数の近くまで組み入れられる可能性がある
  • 先駆け審査指定は今後も継続される
  • ウイルス製造の開発計画をスリム化し,コストダウンを図る
  • これらが進めば2024年の承認申請は自力で可能
  • 承認後の販売に関しては早急に国内製薬企業と話し合いを始める

 医薬品を開発するうえでPartnerがあることは確かに心強いことです。しかし,欧米のバイオベンチャーの成功例を見ると,単純にライセンスをしてMilestone収入やRoyalty収入だけを受け取っているという成功例は必ずしも多くありません。むしろ独自で開発して,独自で製造販売しているバイオ企業の方が成功しています。その典型例がかつてのGenzymeという会社です。希少疾患医薬品だけを開発し,独自で製造販売して,年商5000億円を達成したうえで最終的にSanofiに買収されました。このような成功例はまだ日本にはありません。私たちはそれに挑んでゆきたいと考えています。

 当社としては,テロメライシンの再ライセンスを目標にしない訳ではありません。ただ,安売りをするつもりもありません。然るべき評価をして頂けるようなパートナーが現れた場合には,それなりに考えてゆきたいと思っています。

 中外製薬とは今後契約解消に向けてさらに話し合いを続けてゆきます。その内容に関しては後日お知らせしてゆきます。また,当社のその他のパイプラインに関する方針につきましても順次報告させていただきます。

2021年10月20日
オンコリスバイオファーマ株式会社
代表取締役社長 浦田泰生

第109回(10月12日)『OBP-2011プロジェクト:助成金の採択結果』

 株主の皆様

 今年8月に応募したAMEDの新型コロナウイルス治療薬開発に関する募集に関しまして,残念ながら当社のOBP-2011プロジェクトは落選しました。応募した「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株および今後起こりうる新興再興感染症に対しても対応可能な創薬技術開発」に関しては28題が応募され,書類審査通過はわずか4題でした。OBP-2011プロジェクトはその4題に含まれましたが,最終的にはアカデミアからの基盤技術2題が採択されました。

 今回の募集は,元々アカデミアの創薬基盤技術に対するものであり,当社のような「企業主体」であり「間もなく臨床に入る」ものに対してはやや厳しい判断が下されました。とはいえ,新規メカニズムであること,探索的な毒性試験で異常所見がなかったことなど,創薬開発としてはポジティブに評価されました。一方で,既存の経口コロナ治療薬との差別化や,動物モデルでの効果検討など,すでに当社で取り掛かっている課題に関しては,さらに明らかにするよう指摘を受けました。

 我が国の首相も変わり,今後の対コロナ戦略においては,経口コロナ治療薬の必要性を強く訴えています。OBP-2011は今回のSARS-CoV-2だけではなく,今後また発生が予測されている「SARS-CoV-3」にも対応できる化合物だと考えています。当社は今回上げられた課題を短期間で解決し,来年度上半期の治験申請に向け,次の募集にもチャレンジして行こうと思います。

2021年10月12日
オンコリスバイオファーマ株式会社
代表取締役社長 浦田泰生

第108回(9月29日)『テロメライシンの開発計画の変更について』

 この度,中外製薬から,国内で実施予定であった「放射線化学療法併用による食道がんPhase 1」および「頭頸部がんPhase 1」の2試験を中止する旨の報告がありました。一方で「放射線併用による食道がんPhase 2」と「肝臓がんPhase 1」の両試験は今後も継続します。これは中外製薬としても、苦渋の決断となりました。

 治験中止に至った理由のひとつは,コロナ感染症拡大により病院ベッドが中等症から重症患者の治療に優先され,治験のためにベッドが確保できなくなったことがあげられます。大規模な大学病院でもそのような措置が取られています。また,頭頸部がんにおいては,治験薬の供給が大幅に遅れたことが原因となりました。これも,テロメライシンの治験薬の製造過程で度々トラブルに見舞われた上に,世界中のバイオ医薬製造施設においてコロナワクチン製造が最優先されたために,細胞培養液や製造部材などがひっ迫してしまい,その影響でテロメライシンの治験薬製造が遅れてしまいました。

 中外製薬は,今回の2試験の中止に関して,少なくとも安全性や有効性に問題があったからというものではなく,現在進行している「放射線併用による食道がんPhase 2」を確実に成功させるために「選択と集中」を行ったことを明らかにしています。このPhase 2を担当している臨床医を集めて,試験進行に関する中間検討会も行っています。2024年の承認申請に向けて最善を尽くしてゆく予定です。

 一方,当社が主体で実施しているHenogen社でのテロメライシン商用製造につきましては,製造にかかわる部材を早々に発注し,その工程に遅れが出ないよう調整しています。また,アメリカで実施している医師主導の臨床試験においても,進行が遅れている分を取り戻すよう,担当医師としっかりコンタクトを取り治験進行の調整をしてゆく予定です。

2021年9月29日
オンコリスバイオファーマ株式会社
代表取締役社長 浦田泰生

第107回(8月16日)『OBP-601のPhase2開始』

 先週,東京オリンピックをなんとか終えることができましたが,デルタ型コロナ感染による第5波が猛威を振るい,さらに日本列島は大雨による被害が増大するというダブルパンチに見舞われています。皆様におかれましては,如何お過ごしでしょうか。

 さて,アメリカのTransposon社(T社)にライセンスしたOBP-601(センサブジン)の開発状況に関して動きがございましたので報告させていただきます。

 センサブジンは元々HIV治療薬としてアメリカのエール大学からライセンスを受け,当社は2008年から臨床試験を開始し,2010年12月にアメリカ大手製薬企業ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)にサブライセンスした化合物です。BMSが独自にPhase 2bまで開発し,非常に良い結果が出たものの,BMSがオプジーボ開発に資金を投入するためか,HIV治療薬の開発や営業をすべて中止するという判断をしたために,2014年にライセンスが返還されていました。

 その後,再ライセンス先を模索する中,我々が全く予想もしない切り口で,T 社がセンサブジンをライセンスインしたいとの申し出がありました。それは「HIVの治療薬を長年飲み続けてきた患者はアルツハイマー病などの神経難病に罹りにくい」という臨床研究の論文が発表されたことが発端になりました。そのメカニズムは,我々のゲノムの中に散在している「レトロトランスポゾン」という遺伝子が,ゲノム構造のあちこちにランダムに転写されてしまうのをHIV治療薬が抑制している,というものでした。アメリカのブラウン大学では様々なHIV治療薬の作用を調べる中,センサブジンが最も強くレトロトランスポゾンの転写抑制作用を持ち,さらにセンサブジンが脳内に入りやすいことを突き止め,T社が開発に着手することになりました。

 T社は2020年にセンサブジン再開発に必要な資金調達を終え,素晴らしいスタッフをリクルートし,昨年から今年にかけて治験用のGMP製剤を製造し,これまでの臨床試験を含む膨大な資料をまとめてFDAと話し合いを続け,本年4月にFDAに治験届を出していました。ALS(筋委縮性側索硬化症)を含む複数種の神経変性疾患に対する治験計画で,いよいよ本格的にPhase 2が開始されることになりました。この試験は今後2年かけて実施され,各種症状の改善が認められればPhase 3に進むことになります。ただし,本治験はすべてプラセボを使った二重盲検試験で実施されるため,中間的な集計などは一切行われることはありません。

 ご存知のように,ALSを含む神経変性疾患は難病であり,世界では様々な治療薬の開発が行われていますが,現在その根本治療薬も存在していません。センサブジンがこれらの疾患で本当に症状の改善を証明できれば,初めての神経変性疾患の根本的な治療薬になる可能性があります。

 私たちはこれからもT社を応援し,センサブジンの開発を成功に導いてゆきたいと思います。

2021年8月16日
オンコリスバイオファーマ株式会社
代表取締役社長 浦田泰生

第106回(7月6日)『OBP-2011の開発の進展と今後の見通し』

 いよいよ東京オリンピックが秒読み段階となり,国内の新型コロナワクチン接種も本格的に進んできましたが,ここに来て新たなデルタ株(インド型)の感染が増加し,未だに収束が見通せない状況です。

 そのような中で,当社は昨年より新型コロナウイルス治療薬の開発に取り組み,現在OBP-2011という低分子化合物での開発を急いでいます。新日本科学と共同で薬物動態試験や毒性試験などを行い,スペラネクサス(旧岩城製薬)と組んで化合物のGMP製造などを行っています。

 当社はOBP-2011の開発に全力を上げていますが,まだ乗り越えなければならない多くの山があることも事実です。既に何度かAMEDなどの補助金にも応募していますが,やはりワクチン開発が優先であり,低分子治療薬は安全性と有効性のエビデンスが出るまでは採用を見送る,という厳しい現状も味わっています。

 これまでの研究で,OBP-2011に関しては以下のようなことが明らかになってきています。

    1.変異型ウイルス(イギリス型(α),ブラジル型(γ))にも効果を示した(インド型(δ)は評価中)
    2.SARS,MERSのコロナ株にも効果を示した
    3.経口投与により吸収性が示された
    4.探索的毒性試験において問題となるような作用は認められていない
    5.作用メカニズムはレムデシビルとは異なっている(MSDやPfizerの化合物とも異なっている)

 今後「乗り越えるべき山」のうち,現在最もハードルが高いのが動物実験による有効性の証明です。つまり,新型コロナウイルス感染動物を用いた実験で効果が出せるのか?という点です。新型コロナウイルスは現在バイオハザードの最も高いグレード3の状態,つまり高度にコントロールされた環境で取り扱う必要があります。当社が共同研究をしている鹿児島大学では新型コロナウイルスを使った細胞実験は出来ますが,動物実験ができる施設はありません。日本国内にもコロナウイルスの使用が可能な受託機関はありません。そこで当社は,海外の受託企業(CRO)に実験を依頼することになりましたが,そのキャパシティーは大きいものではなく,何とか年内にデータを出せるところまで来ています。

 今後は,薬物動態試験,安全性薬理試験,毒性試験,品質試験,安定性試験などのデータを積み重ねてゆき,同時にPMDA相談を行い,AMEDなどの補助金にも応募してゆきたいと考えています。現段階で治験申請は来年の上半期を予定しています。

 新型コロナウイルスのパンデミックは一歩一歩終息に向かっているように思われます。しかし,ワクチンの接種率は頭打ちになってきており,今後も新たな変異株の発現が予想され,世界の各地でクラスターが発生することが予想されています。OBP-2011をいち早くマーケットに出すためには大手製薬企業とのパートナリングも必要だと認識しています。

 マスクのいらない世の中を作るために,さらなる努力を続けてゆきたいと思います。

2021年7月6日
オンコリスバイオファーマ株式会社
代表取締役社長 浦田泰生

第105回(6月14日)『日本初のウイルス療法の承認』

 いよいよ東京も,平年より1週間ほど遅い梅雨入りとなりました。全国各地ではコロナワクチンの接種スピードも加速されています。私も先週金曜日に第1回目の予約接種を受けてきました。当日は体温の上昇もなく,身体の異常もなかったのですが,土曜の未明から悪寒が走り,土曜日には微熱(37.7℃)と全身倦怠感が強くなりました。身体がワクチンに反応していた証拠でしょう。

 さて,去る11日には第一三共(株)からの国内で初めてのヘルペスウイルス療法「デリタクト」が条件・期限つき(7年)で承認されたというニュースが入ってきました。これは世界で2件目のヘルペスウイルス製剤の承認となります。グレード3~4という悪性度の高い脳腫瘍(悪性神経膠腫)に対する適応で,本承認までの期間の投与症例を全例調査する,カルタヘナ条約に適合した施設のみで使用する,などの条件が付きました。このような条件付き承認は,新しいメカニズムの新薬にはよくあることで,厚生労働省も慎重に対処しているようです。恐らく,近い将来にはテロメライシンにも同じような要件がついてくる可能性はあります。

 当社と中外製薬としては,ウイルス療法として先を越されたことになりますが,厚生労働省がウイルス療法に対しても”世界に先駆けて”承認するという前例が出来た点で,大きなターニングポイントになったと言えるでしょう。私たちは,初めての”アデノウイルス”によるウイルス療法の食道がんに対する承認申請を目指して,また,承認申請時期を可能な限り早める努力をして開発を進めてゆきたいと思います。

2021年6月14日
オンコリスバイオファーマ株式会社
代表取締役社長 浦田泰生

第104回(6月3日)『テロメスキャンの順天堂大学共同研究講座の開設』

 この度,プレスリリース発表にもありましたように,順天堂大学のなかに弊社スポンサーによる共同研究講座を開設する運びとなりました。講座名は現在順天堂大学病院院長の髙橋和久教授(呼吸器内科学)に命名していただき「低侵襲テロメスキャン次世代がん診断学講座」という物々しい名称となりました。髙橋院長は当講座の教授を兼任していただきます。

 さて,講座開設の経緯についてお話ししたいと思います。テロメスキャンは起業当時,岡山大学の目論見は,テロメスキャンを手術する前日くらいに,例えば胃がんのがん組織に直接注射して,がん組織だけではなく周辺リンパ節に飛んだがんも蛍光発光させようというものでした。そうすればがん摘出術直後に,あるデバイスを用いて,周辺のリンパ節に蛍光発光があるかどうかを探索して,転移リンパ節を悉く摘出できれば,胃がんの術後再発が防げるのではないかという発想でした。しかし,この方法は医薬品と同じで,新薬開発と同じような莫大な経費がかかると考え,当時は断念せざるを得ませんでした。

 その後,体外診断薬として開発するべく様々な試行錯誤を繰り返し,血液中の循環がん細胞(CTC)を検出できないかと,臨床検査専門の企業や大学研究室などとのタイアップを行ってきました。しかし,このCTC検査をビジネスとして生かしてゆくには,いくつもの課題が浮き彫りになってきました。

その主な課題とは,

  1. 顕微鏡を目視で観察することで,判定に時間がかかりすぎる(1検体で3時間以上)
  2. 目視での観察は,精度あるいは再現性に問題がある
  3. 検出されたCTCは,本当にがん細胞なのか?

などが挙げられました。

 しかし,昨今のAI技術の発展により,上に挙げました課題1や課題2に関しては克服可能となってきました。しかし課題3に関しては,やはり専門性が高く,臨床検体の入手がより容易な大学とタイアップしないと克服できないと判断しました。

 順天堂大学呼吸器内科学とは,2012年からテロメスキャンの臨床応用に関して共同研究を行ってきました。その間に,肺がんの早期検出に関する論文を発表し,検体処理法に関する特許も成立させてきました。今回の共同研究講座の開設においては,これまでの共同研究による経験則を十二分に生かし,当社からも研究員を派遣し,「より高い検出効率を達成できる高精度なCTC検出プラットホーム」を完成させることを目標としました。

 更に,順天堂大学臨床検査医学科の田部陽子教授にもご参画いただき,将来,順天堂大学病院のなかでCTC検査がいつでも可能な体制を作り,がんの早期発見やがん治療の予後判定に利用されるよう検査システムを整えてゆきたいと思います。また,このような検査ユニットを国内外の病院に広げて,CTC検査事業の拡大につなげてゆきたいと考えています。

2021年6月3日
オンコリスバイオファーマ株式会社
代表取締役社長 浦田泰生

第103回(4月15日)『テロメライシンの承認申請時期の遅れ』

昨日,中外製薬よりテロメライシンの承認申請時期を「2024年以降」にするという報告を受け,皆様にご報告をいたしました。中外製薬の開示規定によると,仮に2024年1月が申請時期であったとしても「2024年以降」というカテゴリーに分類されるため,このような報告になっています。

申請時期遅延の原因としては,USAで行われているテロメライシンのGMP製造並びにそのプロセスバリデーションが遅れていることがあげられています。現在,欧米のバイオ製造企業の多くは,コロナウイルスワクチン製造にかなり多くのリソースが割かれているという現状があります。特にウイルスベクターを使ったワクチン製造は,当社のテロメライシン製造と競合してしまい,どうしてもワクチン優先になってしまいます。そのために,当社のための製造スケジュールが自由に選択できず,常に後手後手に回ってしまっています。さらに,製造スタッフも経験豊かで優秀な人材が必ずしも割り当てられていないのではないかと感じています。今後は,セカンドサプライヤーとの契約を行い,可能な限り,これまでの製造面での遅れを取り戻してゆきたいと考えています。
一方で,臨床試験の組み入れも遅れています。これは世界中の製薬企業の治験がコロナウイルスの感染拡大によって大きな影響を受けています。中外製薬は日本国内の10を超える治験施設で活発に臨床試験を推進し,施設への直接訪問もままならない中でも,中間的な研究検討会を開催するなどの多大な努力を続けてきました。しかし,残念ながら昨年は医療現場のスタッフがコロナウイルス感染症のケアに大きく割かれたために,食道がん患者様の治験への組入れが大きく遅れる結果となってしまいました。しかし,直近の報告では,今年に入ってから症例の組み入れが増えてきたとの報告を受けており,今後改善されるものと考えています。

昨日,中外製薬のシニアマネージメントとの話し合いがありました。テロメライシン開発には様々な困難はありますが,現段階でネガティブな状況ではなく,日本で最初のアデノウイルス製剤を世に出してゆこうという気持ちは両社で一致しています。この遅れを,両社の協力体制のもとに最大限の努力を重ねて可能な限り申請時期を前倒ししてゆくことをお互いに確認できました。

どうぞ,この状況をご理解いただきますよう宜しくお願い申し上げます。

2021年4月15日
オンコリスバイオファーマ株式会社
代表取締役社長 浦田泰生

第102回(4月9日)『治験参加ご希望の患者様との面談を終えて』

先日,ステージ4の膵臓がん患者様とご面会する機会がありました。ご存知のように,膵臓がんは早期発見が極めて困難で,多くの場合,発見された段階で他臓器に転移が認められるステージ3または4と診断されてしまいます。日本膵臓学会の統計では,ステージ3では24%,ステージ4aで11%、ステージ4bで3%という数字が出ており,非常に予後の悪いがんであると言えるでしょう。

さて,ご本人はというと,すでに複数回の抗がん剤治療を経験しておられ,診断後すでに1年が経過しており,一見お元気そうに見えましたが,肝臓への転移などが見つかり,がんマーカーも再上昇してきたとのことでした。お話の中で特に印象的であったのは,初期の抗癌剤治療(化学療法)では,ある程度の効果が認められたものの,手足のしびれや脱毛,更には足が何倍にも腫れあがってしまうという,とても苦しい治療に耐えてこられたということでした。

ご本人は,テロメライシンや第二世代のOBP-702による治療を強く希望されました。しかし,膵臓がんに対する臨床上のエビデンスがまだ不十分であり,さらには薬機法の問題などからお断りせざるを得ませんでした。私は薬剤師ではありますが,医師ではないため,がん患者様の治療に直接携わることはできませんが,非常に大きな無力感に苛まれました。

がん治療の世界は日進月歩,この10年でも数多くの新しいがん治療薬が世に出てきました。特に肺がん,前立腺がんや乳がん領域においては非常に有効な治療薬が承認され,がんが治る時代の到来を感じました。それでも,先日お会いした患者様のように,膵臓がんや肝臓がんと言った非常に治療が困難ながんも確実に存在しているのは事実なのです。

我々オンコリスバイオファーマにできることは,1日も早く「がんのウイルス療法」を世に出して,少しでも多くの患者様に副作用の少ないがん治療の選択肢をご提供できるようにすることだと,あらためて肝に銘じました。

2021年4月9日
オンコリスバイオファーマ株式会社
代表取締役社長 浦田泰生

第101回(3月26日)『第17回定時株主総会のご報告』

昨日は花曇りの中,当社第17回定時株主総会を無事終えることが出来ました。株主の皆様には厚くお礼申し上げます。コロナウイルス感染が続いています折にも,合計45名の株主様に当日ご出席を賜ることができ,感謝の念に堪えません。提出しました4つの議案はすべて承認され,新しい取締役体制のもと,今後も企業価値向上に努めて参りたいと心を新たにしています。

株主総会に引き続き行われました事業説明会にも,ほとんどの株主様にお残り頂きました。長時間にわたる説明をお聞きいただき,数々の貴重なご意見を賜ることが出来ました。テロメライシンの商業用GMP製造に関わる中外製薬との交渉,テロメスキャンの商業化への道程,OBP-601の開発展開をはじめ,黒字化への展望など数多くの質疑が行われました。新たにパイプラインに加わりました新型コロナウイルス治療薬OBP-2011につきましても,最新情報を含め時間をかけて説明させていただきました。私たちの経営課題は,株主様にとりましても同じ課題であることを,改めて認識させていただきました。

事業説明会の模様は,後日ホームページに掲載し,種々ご事情によりご出席かなわなかった株主様にもお伝えしたいと思います。

今後ともオンコリスバイオファーマに対するご指導,ご支援を賜りますよう,宜しくお願い申し上げます。

2021年3月26日
オンコリスバイオファーマ株式会社
代表取締役社長 浦田泰生

第100回(3月19日)『創立17周年を迎えて』

今年も都内の桜が咲き始め,2年目のコロナ禍の中でも,確実に春がやってきました。3月18日には弊社17周年を迎えることができ,これもひとえに皆様のご支援の賜物と心に銘じております。また,このコラムも100回を迎えるとのことで,遅筆な私も「継続は力なり」という言葉を実感しています。

ご承知の通り,弊社では3月25日の株主総会に向けて準備を着々と進めています。新型コロナ対策も可能な限り万全を尽くしてゆきたいと考えております。昨今の株価低迷に関しましては,株主の皆様に大変ご迷惑とご心配をおかけしております。可能な限り良いニュースを皆様にお伝えできるよう心掛けて参ります。

さて,先日ニューヨークのコーネル大学からテロメライシンの胃がんに対するPhase 2 の中間結果が送られてきました。少数例での評価ではありますが,テロメライシン投与による明らかな効果が認められ,ステージ4の末期患者がチェックポイント阻害剤単独投与では効果が出なかったにもかかわらず,テロメライシンを併用して大きく状態が改善し,1年以上生存している症例の報告がありました。今後も臨床施設を増やしてこの医師主導臨床試験を続けてゆくことを担当医から伺いました。詳細は株主総会で報告させていただきます。

新型コロナ治療薬OBP-2011については,GMP製造会社との契約をひかえ,増々前臨床試験が加速されてきました。次世代テロメライシンOBP-702につきましては,3月16日の日経新聞にも取り上げられました通り,岡山大学ではすい臓がんの臨床試験開始に向けて準備が進められ,アメリカでは多くの臨床家の評価を調査しています。テロメスキャンにつきましても,AIを使ったがん細胞検査プラットホームの確立に向けて,順天堂大学での共同研究が加速されます。また,トランスポゾン社に導出しているセンサブジン(OBP-601)も様々な神経難病に対する臨床試験に先立つFDAとの会議も終え,いよいよ臨床試験の準備が整い始めたとの報告を受けました。

このようないいニュースばかりではなく,昨年来のコロナ禍での臨床試験の遅れや,テロメライシン製造のセカンドサプライヤー選定の難航など,いくつかの課題もあります。

これら詳細につきましては,株主総会にて皆様に詳細をお伝えしてまいります。
新型コロナウイルスに対する緊急事態宣言が解除される見通しですが、ご来場頂く場合はどうかお気をつけください。

どうぞ宜しくお願い申し上げます。

2021年3月19日
オンコリスバイオファーマ株式会社
代表取締役社長 浦田泰生

第99回(3月4日)『株主総会の議決権行使のお願い』

株主の皆様へ

1都3県の緊急事態宣言は2週間延長される見通しですが,皆様におかれましては如何お過ごしでしょうか?

さて,来る3月25日に執り行われます第17回定時株主総会の招集通知を発送させて頂きました。例年であれば,株主の皆様のご来場を心よりお待ちしていますが、本年は,極力書面またはインターネットによる事前の議決権行使をお願い致します。

今回の株主総会では,発送しました案内にございますように,ご承認頂きたい決議事項が4つございます。

  1. 取締役5名の選任です。創業者の私は続投して,テロメライシンの価値拡大,新型コロナウイルス感染症治療薬や次世代テロメライシンOBP-702の開発進展など,オンコリスの企業価値をさらに大きくしてゆきたいと考えています。新任取締役には,井上淳也氏を業務管理担当としてノミネートしました。前職から優れた管理能力と海外での業務能力を発揮しており,より活力のある取締役会にしてゆきたいと考えています。また,社外取締役である浦野氏は,東証一部上場企業の元社長として培われた知見を活かし取締役会で積極的に意見を述べており,継続してその任にあたります。
  2. 定款の一部を変更し,取締役の任期を2年から1年に短縮したいと考えています。この変更は,株主の皆様から取締役への信任機会を増やすと共に,取締役の経営責任を明らかにすることを目的にしています。私を含めた個々の取締役によい緊張感をもたらし,オンコリスの企業価値の拡大に繋げたいと考えています。
  3. 監査役3名の選任です。オンコリスの監査役会は、「会計」・「医薬品の開発~上市」・「法務」の異なる専門領域を持つ3名の監査役により構成され,多様な視点を基に「私を含めた取締役の職務の執行」を監査します。なお、大木氏と永塚氏は、社外監査役に就任する見通しです。
  4. 最後に補欠監査役1名の選任です。株主の皆様もご存じのとおり,監査役会は法令の定めにより,常に3名以上である必要があり,なおかつ,その過半数は社外監査役で構成される必要があります。次回の監査役の任期である2025年3月までの間に不測の事態が生じても,オンコリスを適法に運営するため,補欠の社外監査役のご選任をお願いするものです。

つきましては,株主の皆様にお願いがございます。株主総会で議案の審議を行うには,33.4%以上の株主の方に「議決権行使書の返送、又はインターネットの利用により、株主総会前日までに議決権を行使頂く」または「当日株主総会の会場にご来場頂く」のどちらかを行って頂く必要がございます。本年は,新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、極力書面またはインターネットによる事前の議決権行使をお願い致します。何卒,くれぐれも宜しくお願い申し上げます。
なお,株主総会終了後には短い休憩を挟みまして,例年通り,事業説明会を開催する予定です。但し,今後の状況変化次第では,株主総会の日時・会場や事業説明会の開催有無などを変更させて頂く可能性がございます。これらのご案内は,当社ホームページを通じて皆様に案内差し上げます。

株主総会や総会後の事業説明会は,株主の皆様からご意見や𠮟咤激励を頂戴する機会であり,私も株主の皆様からのご発言に対して直接回答差し上げることを,毎年楽しみにしています。
しかしながら,本年は大変残念ではございますが、極力書面またはインターネットによる事前の議決権行使をお願い致したく存じます。

寒暖差も大きく,季節の変わり目でもあります。どうか皆様もご健康には十分ご留意されますよう,こころよりお祈り申し上げます。

2021年3月4日
オンコリスバイオファーマ株式会社
代表取締役社長 浦田泰生

第98回(2月25日)『OBP-702とOBP-601の近況』

新型コロナ感染による緊急事態宣言もあと2週間というところで,関西地区や中部地区から早めの解除が始まりそうです。都内ももう一息のところまで来ています。もう少しの間頑張りましょう。

さて,昨年のパイプラインの進捗の中で,OBP-702の状況についてお話いたします。OBP-702は当社ではテロメライシン(suratadenoturev)に次ぐ第2世代の腫瘍溶解ウイルスとして設計されています。従来のテロメライシンの腫瘍溶解作用に加え,私たちの体の細胞にもある「がん抑制遺伝子」の中で最も強いと言われている「p53」という遺伝子を導入し,テロメライシンよりも強力な殺細胞効果とがん免疫誘導を実現させようというウイルスです。OBP-702は,がんのウイルス療法に遺伝子治療をハイブリッドさせたウイルスです。

現在,岡山大学でその作用を解析しており,テロメライシンよりも10-30倍強力な作用を示すことが示唆され,膵臓がんやサルコーマ(肉腫)に対して有効性が示されつつあります。一方で,GMP製造にはいろいろ苦労しています。テロメライシンもOBP-702も同じアデノウイルスですが,抗腫瘍効果はそれぞれ異なるため,製造条件やプロセスに微妙な差が出てきており,プロセス構築に時間をかけています。探索的な毒性試験や生体内分布試験はすでに終了していますが,年内には本格的な毒性試験を完了させ,2022年度中の治験申請に向かいたいと考えています。

OBP-601(Censavudine)は昨年6月に米国のトランスポゾン社にライセンスし,これまでの考えとは異なったメカニズムにより,神経難病(ALSなど)をターゲットとして開発チームが組成されています。さらにトランスポゾン社は十分な資金調達も終え,FDAとのPre-IND会議も行われ,順調なスタートが切られたようです。今年中に神経難病を対象として臨床試験が開始される予定だと聞かされています。

1か月後に株主総会を行います。新型コロナの拡大はまだ十分に収まってはいない状況で,皆様のご来場は出来る限りご遠慮いただき,極力書面またはインターネットによる事前の議決権行使をお願い致します。

三寒四温の季節柄,株主の皆様におかれましてはくれぐれもご自愛ください。

2021年2月25日
オンコリスバイオファーマ株式会社
代表取締役社長 浦田泰生

第97回(2月19日)『新型コロナウイルス感染症治療薬の開発状況』

前回はテロメライシンに関する2020年度の達成に関して報告差し上げました。その後,WHOからテロメライシンの国際一般名称が正式に決定され「suratadenoturev」という日本人には読みにくい名前になりました。今後はこの名前が正式なテロメライシンの呼び名となり,学会や論文などではテロメライシンという商標は使われなくなります。

さて,今回は新型コロナウイルス治療薬プロジェクトに関してお話します。2020年6月に鹿児島大学から本件に関する特許を譲渡され,これまで化合物の最適化を行ってきました。昨年にはOBP-2001という化合物を選択し,注射剤として開発し,先行品であるレムデシビル(ギリアド社)との併用効果を期待するという発表をしました。しかしその後,さらに活性の強い化合物が複数合成されてきました。これらの化合物に関して,探索的な毒性試験や経口吸収性などを検討した結果,OBP-2011という化合物が見いだされました。1日1~2回の経口投与で強い抗ウイルス効果を示す可能性があることが示唆されています。

新型コロナ感染症は,新しいメカニズムのワクチンが複数緊急承認され,先行きに光が差してきたように思えます。しかしながら,すでに「イギリス型」や「南アフリカ型」などの突然変異ウイルスが世界各地で分離され,それらは既存のワクチンでは完全には克服できない可能性があると考えられています。また,日本人はワクチンに対する抵抗感が強く,集団免疫が獲得されるには高いハードルがありそうです。おそらく,来年以降も世界各地で新型コロナウイルスSARS CoV-2のクラスターが発生することになるのではないかと考えています。

この世界的な状況を鑑みて,当社の新型コロナウイルス治療薬を「軽症から中等症」のコロナ感染症患者に適応させ,できれば「無症状のPCR陽性患者」に対しても投与可能することで,コロナウイルスの感染の根元を叩けるのではないかと考えています。すでに,ギリアド社ではレムデシビルを吸入剤として開発されており,それ以外にもMSDやRocheなどが経口投与の治療薬開発を開始しています。しかし,当社のOBP-2011をはじめとする後継化合物は,それらの化合物とはメカニズムが異なると考えており,将来は併用投与も可能になると期待しています。

臨床試験での効果確認は2022年になりますが,まだまだマーケットのチャンスはあり,再びマスクをしなくても楽しく会合ができる世の中が来るよう,最善の努力を続けてゆきたいと考えています。

次回はOBP-702やOBP-601のお話をします。

2021年2月19日
オンコリスバイオファーマ株式会社
代表取締役社長 浦田泰生

第96回(2月17日)『テロメライシンの2020年アチーブメント』

2020年度の決算が固まり,先週発表させて頂きました。昨年度はOBP-601の米国トランスポゾン社への導出が決まり,テロメライシンの食道がんに対するオーファンドラッグ指定が成され,また新型コロナ治療薬に関する特許を鹿児島大学から譲渡してもらうなどの達成があり,売上高314百万円,経常損失は1,723百万円となりました。また研究開発費等は1,050百万円となりました。詳細は2月12日に発表しました『2020年12月期 決算短信』をご覧ください。

さて,研究開発の進捗に関してご報告させていただきます。内容が多いので,これから数回に分けて報告させていただきます。

まず,テロメライシンですが,現在国内4本,米国4本,合計8本の臨床試験が実施されています。残念ながら,やはり新型コロナウイルスの影響で,2020年は全ての臨床試験において遅れが認められました。当社が米国で進めています胃がんPhase2試験ですが,目標18例中昨年12月までに9例の投与が行われ,その中間報告がありました。すべてステージ4の重症の胃がん・胃食道接合部がん患者が組み入れられ,ペムブロリズマブが併用されました。このうち1例がPR,1例がSDとなっています。PRの症例については現在も存命であり,またテロメライシンを投与した局所のがんについても縮小が認められています。担当であるコーネル大学シャー医師は,ある程度の手ごたえがあると判断し,今後も症例の組み入れを続けると発言しました。また,米国ではテロメライシンの食道がん治療がオーファン指定を受けていることもあり,今後は,食道がんに対するコホートを設けて進めて行く予定です。

更に米国では,放射線化学療法併用による食道がんPhase1試験と,放射線療法+ペムブロリズマブ併用による頭頸部がんPhase2試験が計画され,すでに治験開始準備が整っています。

また,台湾・韓国で進められてきた肝臓がんPhase1試験については,昨年最終報告がまとめられ,学会で発表を計画しています。テロメライシンの肝臓がん組織への直接注射が,合計20例に行われ,主な副作用は中等度以上のかぜ様症状が6例に認められました。局所へのレスポンスは3例に認められ,最大25%の腫瘍組織縮小が認められました。このデータをもとに,中外製薬では日本国内においてアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用の肝臓がんPhase1試験をすでに開始しています。

国立がん研究センター東病院と岡山大学で実施されている食道がんを中心としたペムブロリズマブ併用によるPhase1試験(EPOC-015)は,やはり症例組み入れが滞り,目標13例中10例の組み入れで留まっています。しかし,テロメライシンの食道がん局所への効果は明らかであり,残り3例の組み入れを急いでいます。

これらの試験以外に日本国内の開発進捗に関しては中外製薬様が主導しており,放射線療法併用の食道がんPhase2試験は2023年以降の承認申請を目指して進められており,更に上記の肝臓がんPhase1試験以外にも,化学放射線療法を併用した食道がんPhase1試験やアテゾリズマブ+化学放射線療法併用による頭頸部がんPhase1試験が計画されています。

次回は新規コロナ治療薬に関して報告いたします。

2021年2月17日
オンコリスバイオファーマ株式会社
代表取締役社長 浦田泰生

第95回(1月18日)『朝日インテックとの資本業務提携』

第一三共が口唇ヘルペスの原因となるウイルスを遺伝子改変して,日本で初めての腫瘍溶解ウイルスG47Δ(DS-1647)の脳腫瘍に対する承認申請を発表しました。承認されれば,日本初のがんのウイルス療法の実用化になります。ターゲットにしているがん種や,ベースにしたウイルスは,当社のテロメライシンと異なりますが,同じがんのウイルス療法を開拓する仲間として,応援しています。

さて,先日資金調達の趣旨を報告させていただきましたが,当社は2020年12月に資金調達の発表と同時に,愛知県瀬戸市にある朝日インテック株式会社と資本・業務提携を行いました。朝日インテック社は心臓カテーテルやそのガイドワイヤーを開発・製造・販売してきた東証1部上場企業で,近年大きく成長を遂げてきた会社です。

 

当社は,皆様もご存知のように,アデノウイルスを遺伝子改変したがんのウイルス療法「テロメライシン」を食道がんに応用してきましたが,その際,現場担当の医師から「テロメライシン」を注射する際にいくつもの課題があると言われていました。

まず,1つの腫瘍の色々な場所に注射したくてもアングルを変えられず,注射したい場所に打てない可能性があります。次に,注射部位1か所あたり一定量以上を,複数個所に注射するという,やや難しいテクニックが必要とされます。更に,既存のカテーテルを使った時には注射が終わった後でも,貴重な「テロメライシン」がカテーテルの管の中に残り,それが使われずに廃棄されてしまいます。

我々はこのような医療現場の課題を解決するために,あしかけ5年の間このようなデバイス開発のパートナーを探してきましたが,到達の難しい患部へのアクセスを可能とするガイドワイヤー・カテーテル技術を持つ朝日インテック社と出会うことができ,これらの課題を解決できる糸口が見つかってきました。

これは,将来商品化された「テロメライシン」の現場での利便性が高くなるだけではなく,第二世代のOBP-702にも応用が可能ではないかと考えています。

当社はアデノウイルスによるがんのウイルス療法を世界で先導し,より良い医療を皆様のもとに届けられるよう,朝日インテック社と共に開発を推進してゆきたいと考えています。

2021年1月18日
オンコリスバイオファーマ株式会社
代表取締役社長 浦田泰生

第94回(1月4日)『2021年 新年のご挨拶』

新年明けましておめでとうございます。世界のコロナ感染は依然治まることなく,再びの緊急事態宣言が検討される中で2021年を迎えることになりました。英国や南アフリカでは新たな変異ウイルスが拡散するなど,増々状況が混沌として参りました。この1年がどのような世界になるのか,だれも予想つかない状況です。

さて,昨年12月10日の増資発表を行って以来,皆様への情報発信が出来なかったことにつきまして,まずお詫び申し上げなければなりません。
皆様既にご存知のことと思いますが,1億円以上の増資を行う場合には「企業内容等の開示に関する内閣府令」の規定に基づき,関東財務局に有価証券届出書を提出する義務があり,そこに記載した内容以外の情報発信により市場に影響を与える可能性が懸念されたため,当社弁護士からのアドバイスに基づいて,第三者割当増資の払込み完了まで私からのコラムなどの発信が叶いませんでした。このような状況をどうぞご理解いただきたく存じます。

今回の増資には以下のような状況が発生したために,数多の検討を行ったうえでやむを得ず実行に至りました。
 1.テロメライシンのGMP製造および品質試験バリデーションに対する追加の資金
 2.OBP-702の前臨床試験およびGMP製造を加速推進するための資金
 3.OBP-2001およびその後継化合物の前臨床試験とGMP製造を加速推進するための資金

まずテロメライシンですが,日本国内では中外製薬が食道がんPhase2臨床試験を進行しています。一方アメリカでは,当社が実施している医師主導治験は残念ながら大幅に遅れています。これはあくまで臨床現場のひっ迫した状況によるものであり,テロメライシン自体の問題によるものではないと認識しています。しかしながら,中外製薬としては2022年以降の日本国内の承認申請に向けて,着々と作業は続けられています。なかでも商業用ウイルス製剤に向けた製法開発には想定以上の資金がかかることが判明し,ウイルス製法開発に対する当社の負担が大きく増加することになりました。

OBP-702については,現在前臨床試験と治験薬のGMP製造が進行しており,2022年初頭の治験申請(IND)を目論んでおり,遅滞なく計画を遂行してゆきたいと考えています。その後に行われる臨床試験は現段階でチェックポイント阻害剤との併用を初期の段階から実施する予定であり,この治験にも然るべき資金が必要となってきます。

OBP-2001およびその後継化合物については,今年上半期にはひとつの化合物に絞り込んで,開発をフルスピードで行ってゆくつもりです。すでにOBP-2001の活性を大きく上回る化合物が見出されており,それらの化合物が経口投与でも効果が出ると判断された場合には,直ちに化合物を切り替えて開発して行く予定です。既に欧米では何種類ものコロナワクチンが緊急承認され,医療従事者やハイリスクな人たちに投与が開始されています。それでもなお,世界がこのコロナ禍から解放されるにはまだ何年もかかると言われています。当社の化合物が,インフルエンザの治療薬と同じように,近所のクリニックでも処方できる世の中が来なければ,世界はコロナ前の世界に容易には戻れないと考えています。

2021年がすでに始まり,世界は様々なやり方でこのコロナ禍と戦っています。当社も様々な問題を抱えながらも,今年は大きな成果が出せるよう,役職員一同最善の努力を払ってゆくつもりです。どうぞ皆様,本年もご指導のほど,よろしくお願い申し上げます。

2021年1月4日
オンコリスバイオファーマ株式会社
代表取締役社長 浦田泰生

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